夫の前の見せ車

昔、秩父のある所に大層仲の良い夫婦がいた。夏は一生際公叩お蚕をしたり、畑仕事をしたり、冬になると「とと殿」は毎日、山仕事に行った。「かか殿」はうちで糸挽きをしたり、糸紡ぎをしていた。
一日中、山で仕事をしてつうくたびれて(疲れててとと殿が山から「よう荷(夕荷)」を背
負って帰ってきた。
「やれやれ、とと殿、疲れたでござんしよう。早速、夕飯に致します」と、とと殿が晩酌を一杯やっているうちに、支度が出来た。疲れたけれど、一杯機嫌ののとと殿の前へ、
「とと殿、今日もこれだけ」
でんぐるりんと、今日、紡いだ糸の玉を転がしてみせた。
「へえー、そりゃよく紡げたもんだ」
と、褒めた。
来る日も来る日も、とと殿が帰ってくると「今日もこれだけ」でんぐるりんと、糸の玉を転がしてみせた。とと殿は感心して、
「うちのかか殿はよく働くわい」と、内心大喜ぴで、毎日の山仕事もはかどった。
ところが、知らぬは亭主ばかりなりで、本当はかか殿はとと殿が留守になると糸紡ぎは少しやって、すぐ飽きてしまって隣近所を「お茶ぴやり」をして歩いてばっかりいたのである。そうして、とと殿が山で一日仕事して帰る頃になると「ビンビンビン」と糸車の音をさせて、いかにも働いたような顔をして、
「さあきあ、とと殿、くたびれたんべえ。すぐ飯にするよ」
と言って、「今日もこれだけ」でんぐるりんと、ときには昨日と同じ糸の玉を出して、転がして見せたこともあった。
冬も過ぎた頃のある日、とと殿が、
「はあ、糸の玉がえら貯まったんべえ。そろそろ機に織ったらよかんべえ」
と言ったもんだから、かか殿はとうとう嘘を言い切れなくなって、うちに火をくっつけて、つん逃げたんだとさ。

※この話は、まだ学校へ出ない子供の頃からよく祖母のひきから聞かされたものである。(昭和初年より)

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