みこし入道物語

明治二十年頃の話だろうか。おしん婆さんが十歳位のときのことだったそうである。
その頃も養蚕が盛んで、子供達もよく家の仕事を手伝っていた。
蛍の出る頃のことだった。座敷を仕切った蚕室の中で、すぐ上の姉のおいきさんと二人で、まだ小さなお蚕の裏取り(蚕座。お蚕の住んでいる座敷へ細い糸で編んだ網を掛け、その上へ蚕の食べ物の桑の葉をやると、網の上に登ってくる。その網を二人で向かい合って、よーいしょと他のお蚕篭へ移す。そして、前の篭の蚕を移した後の蚕の糞や桑の食べ残しなどを捨てる)が終わったら、急に蛍が欲しくなった。
「おおあんねえ」(一番上の姉)の「たけじさん」が止めるのも聞かず、軒下にあった竹箸を持って、真っ暗閣の中を隣の庭を通り、小屋と便所の聞を抜けてその向こうの堀うこを跨いで石菖の小道へ出た。そうして、上の方をみたり、下の方を見たり、堀っ端の草むらを箸でかっ掃いたりしたが、なかなか蛍は見つからない。

裏の竹薮の太い杉の木で「ホット(ミミズク)」がホット、ホットと鳴いている。
「しやむしい(寂しい)なあ」
と言いながら、二人は蛍を探して真っ暗闇の中を、だんだん下の方へ、隣の楼から竹薮の脇の方へ行ってみたが、夜遅いせいか、時期がまだ早いせいか、蛍に出合うことができない。
二人はどうしても蛍が欲しいので、もう少し下へ行ってんべえやと、もうちょうと下の竹原外(竹薮が終わり、竹薮の際を流れる堀と道を隔てて並行して流れる堀が合流する所。それより下は田っ原)の所まで来た。
全く明かりはなく、星明かりだけ。二人は上の方を見ていたが、下の方からホーッホーッと言って、何か近付いて来たような気がしたので、二人が揃って下の方を振り返った瞬間、
「うわあーっ」
二人は腰を抜かしそうになった。それもそのはず、雲突くような大入道が鼻を摘まれでもわからない真っ暗聞に、鼻にそれこそぶつうかりそうな所に、にょうきーんと立っているではないか。
「うわあー、おっかねえーっ」
二人はもう蛍どころではなかった。手に手に持った竹箸をさっ放り出して、どこをどう走ったか無我夢中で我れ先に家の戸方へ飛び込んだ。

真っ青な顔をして、体はガタガタ。歯の根はガチガチ。何か言おうとしても言葉にならない。
丁度、仕舞湯へ入っていた「たけじ姉さん」に事の次第を漸く話した。すると、大姉のたけじさんは、ろくに驚きもしないで、
「へえ、そりゃあ、御輿入道?うもんだんべえ。あすけえらいは出るっつう話だ」
と、言った。
その話をよく聞かされた子供の頃は、私達も御輿入道っているんだなあと思った。御輿入道とは、古狸が化けたんだそうである。(でも見たことはない)

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